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第3回 睡眠不足や不眠への対処法(薬を使わない認知行動療法)

第3回 睡眠不足や不眠への対処法(薬を使わない認知行動療法)

作成日:2023.08.17

1)広がりつつある認知行動療法

不眠の対処法の1つに、薬を使わない「認知行動療法」があることをご存知ですか。認知行動療法による不眠を改善する効果は睡眠薬による治療とほぼ同じで1)、欧米の不眠症治療のガイドラインで第一選択肢とされており2)、日本でも広がりつつあります。

1) Smith MT, et al. Am J Psychiatry. 2002; 159(1); 5-11.
2) Edinger JD, et al. J Clin Sleep Med. 2021; 17(2): 255-262.

認知行動療法のメリット

認知行動療法とは、問題や症状の要因になっているその人の考え方や行動の習慣(くせ)を明らかにして、よい習慣に変えていくよう促す心理療法です。不眠に対する認知行動療法では、なぜ眠れないのか、自分の睡眠状況を見直して、不眠の背景にある自分の考え方や行動の習慣に気づき、眠れる習慣に変えていきます。

治療終了後も効果が持続

認知行動療法は、不眠に対するさまざまな解決方法を身につけることができ、治療終了後も効果が長く続くことが期待できます1)。ただし、薬のような即効性はありません1)。新しい習慣に体が慣れるまでに時間を要することもあり、効果が得られるまでにはある程度の時間が必要です。一般的には訓練を受けた医師や心理士による1時間程度のカウンセリングを4~6回ほどのスケジュールで行います3)

3) 公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会. 月刊みんなねっと. 通巻158号 2020年6月1日発行. p28-29.

2)不眠に対する認知行動療法の実際

不眠に対する認知行動療法は、「睡眠日誌」に記録された入床時刻、入床から入眠までの時間、夜中に目が覚めた回数や再入眠までの時間、起床時刻などの情報をもとに進められます。

治療のベースとなるのは「睡眠日誌」

毎日記録された睡眠日誌をもとに、睡眠時間、床上時間(ベッドにいた時間)、睡眠効率を算出したり、睡眠状態(寝つきにかかる時間、中途覚醒時間、中途覚醒回数、総睡眠時間、熟睡感)と日中に生じる支障(強い眠気、倦怠感、意欲低下、集中力低下、食欲低下)の度合い、生活習慣と睡眠の関係などを医師と一緒に確認していきます。
睡眠日誌を用いた評価はカウンセリングのたびに行い、医師はその時々の睡眠状態を把握し、治療効果を確認しながら治療を進めていきます。

望ましい睡眠行動へ導くために用いられる技法

不眠に対する認知行動療法では、いくつかの技法を組み合わせて行います。
たとえば、寝室で眠れない体験が繰り返されたために寝室と不眠が関連づけられて習慣化してしまった「寝室では目が覚めてしまう」という望ましくない行動を「寝室では眠る」という正常な行動に変容することを目指す技法(刺激制御法)や、「少しでも長く眠ろうと、実際に眠れる時間よりも長い時間ベッドで過ごす」ことでかえって睡眠の質が悪化しているような場合にはベッドの上で過ごす時間を制限して睡眠の質の改善を目指す技法(睡眠制限法)が用いられます。両者を合わせて「睡眠スケジュール法」と呼びます。

睡眠衛生指導は単独ではなく、これらの睡眠スケジュール法などと組み合わせて行うことが勧められます。これらの技法を組み合わせた治療により、慢性不眠症患者の7~8割で症状が軽減したことが報告されています4)

4) Morin CM, et al. Am J of Psychiatry. 1994; 151(8): 1172-1180.

3)不眠に対する認知行動療法の今後

不眠に対する認知行動療法は有効な非薬物療法として日本でも広く行われつつありますが、今後、さらに広範な応用が期待されています。

睡眠薬の減量・中止へ向けた応用

不眠を訴える患者さんの多くが睡眠薬を服用していること、しかも服用が長期化していることから、睡眠薬の減量や中止を目的とした認知行動療法の効果についても検討が始まっています。少しずつ減薬するよりも認知行動療法を取り入れたほうが服薬中止の成功率が高く5)、今後は多剤併用中の不眠症患者さんでも薬だけに頼らない治療法の確立や睡眠薬減量効果などが期待されています。

5) Morin CM, et al. Am J Psychiatry. 2004; 161(2): 332-342.

身体疾患や精神症状に伴う不眠への応用

最近では、身体疾患や精神症状に伴う不眠にも認知行動療法が効果を発揮することが次々に明らかにされています6-9)。多くの患者さんが不眠を訴えるうつ病では、不眠だけでなく、うつ病の主症状である抑うつの改善効果も期待できる報告もあります8,10)

6) Tan EP, et al. Ann Acad Med Singapore. 2009; 38(11): 952-959.
7) Espie CA, et al. J Clin Oncol. 2008; 26(28): 4651-4658.
8) Watanabe N, et al. J Clin Psychiatry. 2011; 72(12): 1651-1658.
9) Germain A, et al. Behav Res Ther. 2007; 45(3): 627-632.
10)日本うつ病学会 気分障害の治療ガイドライン作成委員会:日本うつ病学会治療ガイドラインⅡ. うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害2016
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/20190724.pdf(2022年8月31日閲覧)

〔コラム〕 自分でできる認知行動療法11)

不眠を訴える人の多くは、実際に眠れる時間よりも長い時間をベッドの上で過ごしてしまい、かえって睡眠の質を低下させてしまいます。そこで、ベッドの上で過ごす時間を短く固定することで睡眠の質の向上を目標にします。

ステップ①

睡眠日誌で「実際の睡眠時間」と「ベッドの上で過ごした時間」を確認してください。(7時間ベッドの上で過ごしているのに実際は5時間しか眠れていない)

ステップ②

当初の目標睡眠時間を5時間半~6時間程度(実際に眠れている時間に30分~1時間プラスした時間)に設定し、就寝時刻を遅くするなどベッドの上で過ごす時間を短くし、「実際の睡眠時間」と「ベッドの上で過ごした時間」のギャップを少なくします。

ステップ③

目標睡眠時間をクリアできたら15分ずつ増やしていき、最終的な目標睡眠時間に近づけていきます。

ベッドで過ごした時間21時~4時の計7時間 実際の睡眠時間23時~4時の計5時間 21時就寝を22時就寝に変更することでベッド上で過ごす時間を短くする

睡眠日誌(例)

効果が得られるまでに少し時間がかかります。
「眠れないときは、むしろ遅寝・早起き」くらいの気持ちでトライしてみるといいでしょう。

11) 公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会. 月刊みんなねっと. 通巻158号 2020年6月1日発行. p28-29.

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医療関係者に対する相談に代わるものではありません。
治療については、個々の特性を考慮し医師等の医療関係者と相談の上決定してください。

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