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第2回 コロナ禍以後の睡眠とメンタルヘルス

第2回 コロナ禍以後の睡眠とメンタルヘルス

作成日:2023.08.17

1)新型コロナウイルス感染症の睡眠への影響

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、世界中の人々が感染拡大に対する不安やストレスを抱え、感染予防のため新しい生活様式を余儀なくされています。生活様式の変化が睡眠にどのような影響をもたらしているのか、コロナ禍と睡眠の問題がクローズアップされています。

新しい生活様式がもたらした睡眠への影響

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、海外での「ロックダウン」をはじめ、日本でも「ステイホーム」「リモートワーク」「オンライン授業」「ソーシャルディスタンス」などが推奨され、これまでの生活スタイルは大きく変化しました。
たとえば「テレワーク」では、満員電車での通勤ストレスから解放されるというメリットがある一方で、生活にオン・オフの切り替えがなくなって生活リズムのメリハリが失われ、定時出社の必要がなくなり起床時間が遅くなったり深夜までパソコン作業を続ける生活が常態化するなど生活が夜型化して、不眠や寝不足など睡眠時間が減ったと感じている人が増えているようです。
また、「ステイホーム」により、運動不足を実感している人も多いでしょう。日中の外出機会も減って太陽光を浴びるチャンスも失われがちで体内時計が乱れやすくなり、睡眠の悪化につながる可能性があります。

一方、コロナ禍が睡眠に悪い影響ばかりではないこともあるようです。「オンライン授業」など在宅での学習を強いられた学生では、コロナ禍以前に比べ規則正しい生活を送りやすくなり生活リズムが改善し、その結果睡眠によい影響があったという調査結果もあります1)
コロナ禍における新しい生活様式は必ずしも睡眠に悪い影響ばかりではありませんが、繰り返される感染拡大、緊急事態宣言、見通せない将来展望、コミュニケーション機会の減少による孤独感などを背景に、ストレスや不安にさらされやすく、不眠などの睡眠障害になりやすいことには注意が必要です。

1) Korman M, et al. Sci Rep. 2020; 10(1) 22225.

2)不安やストレスによる不眠がうつ病のリスクに

コロナ禍での不安やストレスにより不眠が続くと心身の疲労が蓄積して、不安感や抑うつ感(気分が落ち込んで何もする気になれない)、意欲低下(何もしたくない)という状態に陥りがちです。こうした状態が長く続くと、うつ病に発展する可能性のあることが知られています。

不眠はうつ病発症の重大な危険因子

不眠とうつ病の関連性は非常に強く、切っても切れない関係だと言われています。
たとえば、不眠の症状をもっていると将来的にうつ病に発展するリスクが大きいことが多数の調査研究の結果わかってきています。アメリカにおける調査2)では、うつ病と不眠の有病率を1年間のインターバルをおいて2回調査したところ、2回とも不眠があった人は、2回とも不眠がなかった人に比べてうつ病のリスクが約40倍高かったと報告されています。その後の同様の研究では、不眠をもつ人では不眠のない人に比べてうつ病の発症率が約2倍高いことが確認されています3)

2) Ford DE, et al. JAMA. 1989; 262(11): 1479-1484.
3) Baglioni C, et al. J Affect Dis. 2011; 135(1-3) 10-19.

うつ病寛解後も不眠は残りやすく、再発につながることも

不眠はうつ病に最も多くみられる症状の1つとして知られていますが、薬物療法などに反応を示した患者でも不眠の症状は9割以上で残るという報告もあります4)。さらに、残された不眠はうつ病を再発する危険因子であることもわかってきました。日本で行われた調査でも、不眠はうつ病の危険因子であることが示されています5)

4) McCilntock SM, J Clin Psychopharmacol. 2011; 31(2) 180-186.
5) Okajima I, et al. J Clin Psychiatry. 2012; 73(3): 377-383.

3)不眠が続くようなら専門医に相談を

不眠の原因は実にさまざまで、原因によって対処法は異なります。したがって、専門医を受診して不眠の原因を明らかにすることは重要です。

毎日の睡眠状態から原因を疑ってみる

不眠の主な原因としては、ストレスや種々の身体疾患や精神疾患、薬物・アルコール・刺激物、生活リズムの乱れ、不適切な睡眠環境などが挙げられます。不眠や睡眠の問題が続くようなら、毎日の睡眠状態を自分でよく観察してみることも必要です。

たとえば、夜中に何度も目が覚める、睡眠中の窒息感、日中の強い眠気などがあれば「睡眠時無呼吸症候群」(睡眠時の呼吸異常により過眠や高血圧などを引き起こす疾患)の可能性が疑われます。また、夜になると下肢を中心に異常感覚(ムズムズする、痛がゆい、じっとしていると不快)を感じて眠くても眠れないなら「レストレスレッグス症候群」(夜になると出現する下肢を中心とした異常感覚により不眠、過眠を引き起こす病気)かもしれません。また、抑うつ感が続き、物事に興味をもてない、集中力が低下したなどの状態があれば、うつ病を疑ってみることも大切です。

これらの疾患では専門的な診断・治療が必要になるので、専門医(精神科・心療内科)を受診することを強くおすすめします。専門医への受診がためらわれるなら、まずかかりつけ医に相談してみてもよいでしょう。

〔コラム〕 睡眠日誌をつけてみよう6,7)

睡眠日誌は、自分の睡眠状態をより正確に把握するための睡眠記録です。
普段の睡眠の長さや規則性を把握できるだけでなく、自覚していなかった睡眠の特徴の発見につながることもあります。
専門医の診察を受けるときに持参すれば、医師の診察に役立つ情報となります。

睡眠日誌のつけ方

  • 横になっていた時間帯は矢印を記入し、実際に眠っていた時間帯は塗りつぶす。
  • ぐっすり眠っていた時間帯は濃い色、うとうとしていた時間帯は薄い色や斜線にするなどして区別すると、より詳細に把握できる。
  • 日中に横になったり、仮眠やうたた寝をした場合も、忘れずに記録する。
  • 日中の眠気の強さ、行動・出来事、体調の変化なども記録しておくとよい。

毎朝起床時に、その夜の睡眠状態を思い出して記録します。
まずは2週間くらい続けて毎日記録してみましょう。

「1日(月)0時~6時の間横になっていた 1時~2時うとうと 2時~5時ぐっすり眠る 5時~6時うとうと 14時~17時うたた寝 21時~横になる 23時うとうと」「2日(火)~6時横になる 0時~1時うとうと 1時~3時ぐっすり眠る 4時~5時うとうと」

睡眠日誌(例)

睡眠日誌からわかること

ある程度の記録がたまったら、睡眠時間の規則正しさ、長さ、睡眠状態と日中の調子の関連などに留意しながら振り返ります。
たとえば・・・

  • 起床時間が不規則であれば、可能な限り同じ時刻に起きるようにします。
  • 睡眠効率(総睡眠時間÷総床上時間)が90%未満であれば何らかの問題があることも考えられるので、睡眠衛生を見直してみましょう。

6) NCNP病院ホームページ 睡眠日誌について
https://www.ncnp.go.jp/hospital/sleep-column9.html(2022年3月10日閲覧)
7) 井上雄一, 岡島義 編. 不眠の科学. 朝倉書店, 2012, p86-94, 213-239.

より客観的に睡眠を評価したい場合、睡眠日誌から気になる問題点がある場合には、ぜひ一度、専門医の診察を受けてみてください。

本サイトに掲載された健康情報は医師や専門家の監修したものですが、啓発を目的としたものであり、
医療関係者に対する相談に代わるものではありません。
治療については、個々の特性を考慮し医師等の医療関係者と相談の上決定してください。

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