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メンタルサポートQ&A

思春期の子を持つ親や学校の先生に知ってほしいこと

解説:佐々木 司 先生 東京大学大学院教育学研究科 教授

作成日:2023.08.17

はじめに

学校に通う子どもたちには、いじめ、不登校、集団への不適応など、さまざまな問題がみられます。それらの背景には、環境のストレスや家族・対人関係などに由来する問題や、子ども自身が持つ精神的素質、また内科・小児科疾患などの医学的問題もあると考えられます。特に近年はスマホの問題や生活習慣の問題なども絡んで、子どものこころの問題がより複雑化しており、対応に苦慮することも少なくありません。そのため、親や学校の先生たちには子どもの抱える問題を正確に見きわめ、適切に対応することが求められます。近年、そのためのキーワードとして、“メンタルヘルスリテラシー”の必要性が提唱されています。メンタルヘルスリテラシーとはなにか、それを身につける必要性、その方法などについて解説してみたいと思います。

Q1.メンタルヘルスリテラシーってなに?

A1.
こころの不調や病気の兆し、症状やその特徴を理解し、その予防と改善に役立てられる能力のこと

こころの不調、病気の多くは思春期に増え始める

思春期は一般的に10代前半に始まりますが、アメリカの報告では早い子どもでは10歳前から始まることもあります1)。思春期には性ホルモンの分泌が増え、性的欲求が高まります2-3)

その一方で、感情や欲求をコントロールする脳の発達は遅く、それが成熟するのは20代半ばです2,4)。そのため、思春期はこころの状態が不安定になりやすく、攻撃性や衝動性も強くなりがちです。またそうした影響から、他者との関係に支障をきたしたり、孤立感が助長されたりしやすいことも特徴です。すなわち、思春期はこころの不調・病につながりやすい時期といえます。

オーストラリアの研究によれば、10代では精神疾患すなわちこころの病気が生活障害への影響の中で最も大きいことがわかっています5)。したがって、思春期の子どもたちを持つ親や子どもたちと日ごろから接する学校の先生たちは、こころの不調や病気をより身近な問題と捉え、注意する必要があります。

1) Kessler RC, et al. Arch Gen Psychiatry. 2005; 62(6): 593-602.
2) 佐々木 司, 三木とみ子監修. 子どもの心を守る 大人が学ぶ、思春期のメンタルヘルスといじめ防止. トヨタ財団 2016年度社会コミュニケーションプログラム
3) Reproductive Endocrinology and Related Disorders _ Basicmedical Key
https://basicmedicalkey.com/reproductive-endocrinology-and-related-disorders/(2022年3月1日閲覧)
4) 友田明美. 脳科学・脳神経科学と少年非行. 犯罪社会学研究. 2017; 42: 11-18.
5) 佐々木 司. 特集 なぜ、なに、どうして? 学校保健 第4回「精神保健・精神疾患を学ぶ」~改めて知っておきたい基礎知識~. 子どもの「げんき」をみんなで支えよう!(公益財団法人 日本学校保健会 学校保健ポータルサイト)
https://www.gakkohoken.jp/special/archives/220(2022年3月1日閲覧)

メンタルヘルスリテラシーはこころの不調への気づきを助け、適切な対処を促す

メンタルヘルスリテラシーとは、「こころの不調・病気の兆し、症状、特徴の認知と理解、それらの予防と改善に役立つ知識や意識」とされています。思春期の子どもたちにとっては、メンタルヘルスリテラシーを身につけることで、こころの不調・病気の予防や迅速な対応が可能になり、そして周囲の人たちとの相互の助け合いができるようになります。

Q2.子どもたちにメンタルヘルスリテラシーを持たせるにはどうしたらいい?

A2.
学校でのメンタルヘルスリテラシー教育の実施、家族や先生など周囲の大人たちもメンタルヘルスリテラシーを身につけておくことが必要

わが国には、まだメンタルヘルスリテラシーは根づいていない6)

わが国では、精神疾患の症状や予防、対処法を十分に学んでいる人は少数です。それは学校教育などで正式に教えることがほとんどないからです。正しい知識が不足していれば、こころの不調への気づきも必要な対処も遅れてしまいます。そうなると、メンタルヘルスに問題を抱えている子どもたちは辛さを1人で抱え込み、どうしたらよいのかわからぬまま過ごすことになります。ですから大人にも子どもにも、メンタルヘルスリテラシーを学ぶ機会が与えられる必要があります。

6) 佐々木司. 都市問題. 2022; 133(2):17-21.

メンタルヘルスリテラシー教育の目標と達成のためのポイント

メンタルヘルスリテラシー教育は、徐々に学校で実施されるようになってきています。私たちが開発した学校用授業プログラムでは、①子どもたちが自分や友だちのこころの不調に早く気づけるようになること、②こころの不調を信頼できる大人に相談できるようになること、③相談を受けた時の対応(助け合い)、の3つの目標を設定しています。この目標を達成するためには、次の4つのポイントがあります。

ポイント1:精神疾患はだれにでも起きる可能性があることを理解させる

2002~2006年の国内11地域の調査では、約5人に1人が生涯で何らかの精神疾患にかかることが報告されています7)。精神疾患は家族を含め、だれでも発症する可能性があることをまず教えることが大切です。

ポイント2:こころの不調には生活習慣も関係することを理解させる

睡眠習慣などの生活習慣はこころの不調に影響を与えます。たとえば、夜更かしや睡眠不足を避けることが精神疾患の予防につながることを教えます。

ポイント3:こころの不調を感じたら、1人で抱え込まないことを理解させる

親や学校の先生など、信頼できる大人に相談することの大切さを教えます。

ポイント4:思春期の子どもに起こりやすい具体的症状を理解させる

気分の落ち込み、意欲の低下、睡眠・食欲の変化のほか、幻聴や被害妄想などの症状もときにはみられることを教えます。実際に不調が起きたときに、「何かおかしい」「いつもの自分と違う」と感じ、不調に気づけるようになることが目標です。

また、メンタルヘルスリテラシーは子どもだけでなく、 家族や学校の先生たちなど、周囲の大人たちも身につけておく必要があります。子どもたちから相談を受けたときに「そんなことはあり得ない」「大げさだ」などと拒否的にならず、話にしっかり耳を傾け、専門医への相談も含め、必要な対応がとれるようになることが大切です。

7) Ishikawa H, et al. Epidemiol Psychiatr Sci. 2016; 25(3): 217-229.

Q3.いじめはこころの不調や自殺の原因にもなり得るが、いじめにどう対応すればいい?

A3.
いじめの防止には子どもたちへの「教育」と「大人の助け」が重要

小中学生の4人に1人が「何らかのいじめを受けたと感じた」との報告も

いじめは身近で深刻な問題です。いじめの被害は、精神的な苦痛だけでなく、こころの不調や病にも関わり、場合によっては自殺につながることもあります。
2012年の大阪府箕面市の調査では小中学生の4人に1人が「何らかのいじめを受けたと感じた」と回答していることが報告されました8)。いじめ被害は想像以上に多いため、日ごろから子どもたちの様子をしっかり見守ることがとても大切です。また、いじめに遭った子どもたちが躊躇することなく、周囲の人に相談できる環境を整えることも大切です。

8) (報道資料)「箕面市いじめ実態把握アンケート調査」の結果について
https://www.city.minoh.lg.jp/edugakkou/houdou/tyousakekka.html(2022年3月1日閲覧)

子どものころのいじめの体験は、大人になってからの精神科受診リスクになる

いじめとこころの不調・病気との関連は子どものときだけでなく、成人後も続くことがあります。フィンランドの研究では、子どものころにいじめを体験した人は、大人になってから精神疾患の治療を必要とするリスクがより高いことが確認されていま9)(図)。しかもこの研究では、いじめの被害者だけでなく、加害者も成人後にこころの不調を抱える割合が加害者でも被害者でもない人の1.3倍でした。

9) Sourander A, et al. JAMA Psychiatry. 2016; 73(2): 159-165.

図2 大人になってからの精神科受診リスク
(図)Sourander A, et al. JAMA Psychiatry. 2016; 73(2): 159-165.より作図

いじめは自殺とも関連している

いじめと自殺との関連を示すデータも数多くあります。たとえば、「日本財団いのち支える自殺対策プロジェクト」の2018年の「日本財団第3回自殺意識調査」では、18歳~22歳の若年層で「自殺念慮(本気で自殺したいと考えたことがある)」「自殺未遂」のエピソードを有する人の半数近くが学校問題が原因の一つと答え、そのうち49%が、学校でいじめを経験していたことが報告されています10)

いじめによる自殺の報道があると、「なぜ周囲はその兆しに気づかなかったのか」と疑問を持つ人も少なくありません。しかし私どもがいじめの被害に遭っている高校生を対象に行った調査では、「死にたい」と思っている子どもは、そう思っていない子どもに比べ、助けを求める割合が少ないとの結果が得られています11)。すなわち、こころの不調が深刻であればあるほど、周囲に助けを求めにくくなることを理解する必要があります。

10) 「日本財団いのち支える自殺対策プロジェクト」2018年「日本財団第3回自殺意識調査」
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/03/wha_pro_sui_mea_11-1.pdf(2022年3月1日閲覧)
11) Kitagawa Y, et al. PLoS One. 2014; 9(9): e106031.

いじめの防止には教育と大人の助けが必要

自分から「助けて」といえない子どもを守るために、どんなことができるのでしょうか? もっとも大切なことは、子どもたちへの教育です。なぜなら、いじめを防止するためには、子ども同士の助け合いが必要だからです。
いじめの場面には「見ている子」がたくさんいます。この「見ている子」の多くは、ただ「見ているだけの子」ですが、中には「いじめをやめさせようとする子」や「やめさせたいと思っていても、それを行動に移せない子」もいます。
いじめを減らす鍵は、この「いじめを見ている子たち」の意識や行動を変えることにあります。「見ている子たち」がいじめられている子を助ける行動、いじめをやめさせる行動をとれれば、いじめを減らせる可能性があるからです。これは、ノルウェーのダン・オルウェウス博士のいじめ防止プログラムに基づいた考え方です12)。その有効性は膨大なデータをもとに実証され、多くの国で活用されています。

では、大人の助けはなぜ必要なのでしょうか。それは「助けたくてもなかなか行動に移せない子」が多いからです。そうした子どものほとんどは、「仕返しが怖い」「口出しすることで、いじめの矛先が自分に向くかもしれない」「今度は自分が仲間外れにされるのでは」と思い、行動に移せないのです。
勇気をもって友だちを助ける行動をとれるようになるには、まず家族や学校の先生を含め、すべての大人のサポートが必要です。「いじめは許さない」「いじめの被害にあっている子を助ける子を、大人はしっかり守る」「いじめについて子どもから相談を受けたら、それをしっかり受け止める」という姿勢を言葉と態度で明確に示すことです。そして、「いじめを止める行動」「被害にあっている子を守る行動」をとれるように、子どもたちをしっかり見守ることが大切です。

12) Olweus D. Psychology, Crime & Law.2005; 11(4): 389-402.
https://olweus.sites.clemson.edu/(2022年3月1日閲覧)

子ども同士の助け合いはこころの不調の助けにもなる

子ども同士の助け合いはいじめ防止だけでなく、こころの健康を守る助けにもなります。互いの助け合いが自分たちの周りで普通に行われていれば、いじめに限らずこころの不調に関しても助けを求めやすくなります。いじめ防止の取り組みを通して、助け合いの精神を学ぶことは、偏見がなく、助けを求めやすい学校・家庭・地域を実現するためにとても重要です。

Q4.いじめ防止は、具体的にはどのように進められるの?

A4.
「いじめ防止プログラム」では3回の授業と学校・家庭・地域が連携した取り組みが行われる

「いじめ防止授業」の目標と授業内容

私たちは、学校の保健室の先生方と一緒に「いじめ防止プログラム」を作成し、その普及を図っています13-14)。このプログラムは、オルウェウス博士が開発したプログラムをベースに、「いじめ防止授業」と「学校・地域での取り組み」で構成されています。

「いじめ防止授業」は基本的に、1時間ずつ3回に分けて行います。

1時間目の目標

いじめがよくないことをしっかり理解させることです。いじめと心身の不調の関連について事例を挙げて説明し、いじめは絶対許されないことを教えます。

2時間目の目標

いじめられている子を助けられるようになることです。まず「いじめの構造」を示し、「見ているだけの子」を含めて、それぞれの立場の子どもの気持ちを考えさせます。さらに、ロールプレイを通していじめられている子をどのように助けたらよいのかを考えさせ、練習します。「どうしたらいじめを減らせるのか」を子どもたちに考えさせ、理解させるとても重要な授業になっています。

3時間目の目標

大人に相談できるようになることです。いじめを見かけたとき、あるいは自分がいじめられたときに、どのような行動をとるとよいのかを具体的に考えさせ、大人への相談を躊躇してはいけないことを教えます。

授業の終わりに

学んだことのまとめとして「4つのミッション」を1つずつ(2時間目は2と3の2つ)教え、みんなで復唱します。

いじめをなくそう!4つのミッション「1.ほかの人をいじめません」「2.いじめられている人をたすけます」「3.一人ぼっちの人を仲間に入れます」「4.先生や家の人に相談します」

13) 佐々木 司, 三木とみ子 監修. 子どもの心を守る 大人が学ぶ、思春期のメンタルヘルスといじめ防止. トヨタ財団 2016年度社会コミュニケーションプログラム
14) 東真理子. 保健の科学. 2021; 63(9): 596-601.

授業だけでなく、学校・家庭・地域の連携が効果をあげる

授業で大切なことは、「いじめを見かけたら、あるいはいじめで悩んでいるなら、 学校の先生など、だれでもよいので身近な大人に相談してもよい」ことを、子どもたちにしっかり伝えることです。その際、「大人はいじめを許さないし、必ずみんなを守る」という姿勢を必ず示すことが重要です。

そうした意識を再確認し、取り組みをより強化するために、子の親、学校の先生、そのほかの地域の人が集まって、ミーティングを行っている学校もあります。いろいろな立場の大人が集まり、考えることで、どのようにしたら子どもを守っていくことができるのか、さまざまなアイディアが生まれます。

いじめは子どもたちの一過性の問題ではなく、一生に関わる可能性のある重大な問題です。より効果的ないじめ対策を行うためには、学校、家庭、地域のすべての大人がその重要性を知り、互いに助け合っていく必要があります。

最後に

10代の子どもたちには、それから先に長い人生が残されています。子どものときのこころの不調・病気が、大人になってからも影響を与える可能性があることを踏まえ、日ごろからメンタルヘルスのサポートを周囲の人たちが心がけることが大切です。その中心は、子を持つ親や学校の先生などの大人たちであり、専門家との連携も大切です。子どもたちの明るい未来を見据えて、社会全体で子どもたちのメンタルヘルスサポートに積極的に取り組んでいただきたいと思います。

本サイトに掲載された健康情報は医師や専門家の監修したものですが、啓発を目的としたものであり、
医療関係者に対する相談に代わるものではありません。
治療については、個々の特性を考慮し医師等の医療関係者と相談の上決定してください。

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