Chapter 1 クローン病のこと
くり返す下痢や腹痛などは、腸に生じている「炎症」が原因かもしれません
くり返す下痢や腹痛などは、
腸に生じている「炎症」が原因かもしれません


腸に生じている「炎症」が原因かもしれません
クローン病のこと
腸に炎症が生じる病気を、「炎症性腸疾患」といいます。
炎症性腸疾患には、大腸に炎症が生じる「潰瘍性大腸炎」と、口から肛門までの消化管のあらゆる部位に炎症が生じる可能性のある「クローン病」があります。特にクローン病では、小腸や大腸、肛門の周りに炎症がよくみられます。
クローン病は、国が定めた「指定難病」の1つです。
指定難病とは、原因不明で患者数が少なく治療法も確立していない、いわゆる「難病」のうち、厚生労働大臣が定めた疾患のことをいいます。
クローン病の発症原因はいまだ不明ですが、何らかの遺伝的な因子を背景として、腸に潜んでいる免疫を担当する細胞(リンパ球など)が食事や腸内細菌に過剰に反応して、クローン病の発症に至ると考えられています。
現在、日本には、約7万人1)~3)のクローン病の患者さんがおり、その数は年々増加しています。
クローン病は10~20歳代の若年者に好発し、発症年齢のピークは、男性で20~24歳、女性で15~19歳です2)。
男女比は約2:1と、男性に多くみられます2)。


- 1) 日本消化器病学会 編 『炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020 改訂第2版』 南江堂 2020年 p4-5
- 2) 難病情報センター webサイト (https://www.nanbyou.or.jp/entry/81)
- 3) Murakami, Y. et al.:J. Gastroenterol. 2019;54(12):1070-1077
クローン病の症状
クローン病の特徴的な症状は下痢と腹痛ですが、他にも発熱や体重減少、倦怠感、貧血などの症状もしばしばあらわれます。
また、肛門部に痔瘻[じろう](膿が出る孔[あな]をともなう痔)がみられる患者さんも少なくありません。


クローン病の病変の拡がり
クローン病の病変は、消化管のあらゆる部位に生じる可能性があります。
病変の部位により、小腸だけに病変がみられる「小腸型」や、小腸と大腸に病変がみられる「小腸大腸型」、大腸だけに病変がみられる「大腸型」などに分けられます。


- 厚生労働省 2012年度臨床調査個人票電子化データ集計資料
- 〔難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班) 『一目でわかるIBD 第二版』 2015年 p20〕
クローン病の経過と進行イメージ図
クローン病は、腸管の粘膜に炎症が生じて症状が強くあらわれる「活動期」と、治療により症状が治まっている「寛解期」をくり返しながら、徐々に進行していくと考えられています。
この進行過程で、腸管がせまくなったり(狭窄[きょうさく])、腸管に孔があいて腸管と腸管、または腸管と他臓器がつながったり(瘻孔[ろうこう])などの腸管合併症(→Chapter 2参照)などがみられるようになり、手術療法を要する場合もあります。


- ※再燃:寛解期から再び活動期になること。
- 日比 紀文 ほか 編 『IBDを日常診療で診る』 羊土社 2017年 p45を参考に作図