食生活の変化や医学の発達によって平均寿命がのび、女性の「生き方」も大きく変化してきました。職業を持つ女性が増え、晩婚化や少子化もすすみました。そのため、排卵と月経の回数が必然的に増えたことで、子宮内膜症が増加していると考えられています。子宮内膜症は自覚症状がない場合もあり、潜在的に患っている女性が増えています。命にかかわる病気ではありませんが、つらい月経痛、排便痛、性交痛、その他慢性的な痛みに悩まされることもあるのです。
一方、子宮内膜症は将来、不妊の原因になる可能性もあります。現在、不妊症の患者さんの約半数には子宮内膜症が存在しているといわれています。子宮内膜症と不妊症は密接にかかわっており、日常生活にも大きな支障をきたしかねません。現在不妊治療中の患者さんで、以前からつらい月経痛をかかえていて、実は子宮内膜症だったというケースもあります。
つらい月経痛は、低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤の服用で、痛みを軽減させたり、子宮内膜症が存在していても、ある程度その進行を抑えることもできます。「たかが月経痛」と我慢せず、是非婦人科を受診してください。
子宮内膜症は、排卵し月経がくるたびに進行する可能性のある病気です。薬物治療により痛みを緩和させ、病気の進行を遅らせることができます。症状の強さと進行度は必ずしも一致するものではありません。痛みがコントロールできない場合は医師と相談して薬を変更するなど、症状に合わせた治療を行うことがポイントとなります。
現時点では妊娠の希望がなく、将来的には妊娠を考えている人には、まず、つらい症状をコントロールするために、鎮痛薬や漢方薬、低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤などで治療を始めます。「ホルモン薬は怖い」というイメージから、低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤に抵抗を感じる方も少なくないでしょう。そのため、もともと卵巣から分泌されるホルモンを配合した薬であること、副作用が少ないこと、一部保険適用にもなったということを患者さんにきちんと説明して、患者さん自身で治療を選択してもらいます。
低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤でも症状の改善がみられない場合は、黄体ホルモン製剤を投与しています。このお薬は、排卵をストップさせて、子宮内膜症を悪化させる女性ホルモンの分泌を抑制します。さらに、子宮内膜症病巣に直接作用し、痛みに対し優れた効果が期待できるうえ、妊娠の希望があるまで服用を続けることができます。また、がん化のリスクがあるとされる卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)を縮小させる効果も認められています。一方で、服用中は少量の不正出血がみられることもありますが、長期間続く場合や大量出血の場合は医師に相談してください。さまざまな治療の選択肢があるなかで、低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤から黄体ホルモン製剤に変更した場合は、子宮内膜症の症状の軽減を実感されることもあります。
このように、痛みのコントロールや、患者さんの希望、ライフスタイルなどを考慮したうえで、治療法を患者さんと一緒に考えていきます。
信頼できる医師にご自身のライフプランも含めて相談しながら、上手に症状をコントロールして、毎日を快適に過ごしていきましょう。
子宮内膜症は、赤ちゃんが欲しいのになかなかできないということで受診される30〜40歳代の方の中に多くみられます。子宮内膜症は10代後半から20代前半にすでに発症していると考えられており、早期発見により進行を防ぐためにも、20歳を過ぎたら年に1度は婦人科検診を受けていただきたいですね。
とはいえ、婦人科を受診するということは、勇気がいることかもしれません。不安な気持ちを抱えていても、なかなか婦人科を受診できない方が多いのも事実です。最近では女性医師が増えたこともあって、受診に伴う不安のハードルも少しずつ下がってきています。虫歯が痛むときは歯科へ行くように、決して怖いことはありません。月経痛がつらいとき、また痛みが段々強くなってきたときには婦人科を受診して下さい。性交経験がない方には、問診と血液検査、経直腸エコーで診断を行うことができます。
赤ちゃんが欲しいときにいつでも妊娠できる身体にしておくためにも、かかりつけの婦人科医を是非持ってください。痛みはあなた自身しかわからないのです。心配なことがあったら遠慮せず、何でも相談してみましょう。女性の一生を通して、婦人科医は女性の味方です。