初経の低年齢化や女性の社会進出に伴う晩婚化などによって婦人科系の疾患は増加傾向にあります。月経がある、つまり排卵を繰り返すということは、女性ホルモンを原因とする子宮内膜症や子宮筋腫になる可能性が高まるということです。たとえ自覚症状が無くても重大な病気が発症していることも少なくないため、定期的に検診を受けることが必要です。病気の早期発見はもとより、月経痛や月経不順などの身体の不調を相談できる大切な機会ともいえます。
大人の女性として自身の健康にも責任を持って、年に一度は婦人科検診を受けましょう。将来、出産を希望するかどうかは別として、婦人科受診が当たり前のこととして浸透してほしいと願っています。
子宮内膜症は、月経痛はもちろんのこと腰痛や排便痛、性交痛など、QOL(Quality of life:
生活の質)を低下させる強くて持続的な痛みが最大の特徴です。この痛みに対処するために、近年、治療法の選択肢が増えてきました。子宮内膜症で発生する卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)の大きさは、治療法を選択する上での一つの基準であり、4cmより大きい場合は手術も含めた治療法を考慮しますが、4cm以下の場合は、早く妊娠したいというような特別な事情がない限り、選択肢の一つとして黄体ホルモン製剤による治療を提案しています。
これまでは、子宮内膜症の増悪因子である女性ホルモンを強く抑えて閉経と同じ状態を作るGnRHアナログ製剤の投与(偽閉経療法)、もしくは月経量を減らす低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤の投与などが行われてきました。GnRHアナログ製剤では月経が止まるため月経痛もなくなり、同時に卵巣チョコレート嚢胞を小さくする効果も期待できますが、更年期症状のような副作用があるため、使用期間は6ヶ月の制限があり、継続的に行えるものではありませんでした。また、低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤は月経が楽になって長く使えるものの、GnRHアナログ製剤のように、卵巣チョコレート嚢胞そのものへの治療効果はあまり強くないという点がありました。
一方で、黄体ホルモン製剤には、この両方の薬のメリットを持つものもあり、月経痛を軽減させ、子宮内膜症の病巣を縮小させる作用があります。超音波検査ではとらえられない深部の内膜症にも効果的だと考えています。ただし、このお薬では断続的に続く不正出血に悩まされるという傾向もありますので、この点は事前に患者さんに説明します。長く続いたさまざまな痛みがなくなるだけでなく、卵巣チョコレート嚢胞の縮小もエコーで確認できるので、多くの患者さんが出血を気にしないで服用されているようです。ただし出血量が多く持続日数が長い場合には、医師への相談が必要です。
最近では子宮内膜症がどのような病気であるかが認知されつつあり、不妊の大きな原因になることも知られてきたようです。月経痛に何らかの不安を感じて受診に至るケースも増加傾向にあります。また、インターネットなどで情報があふれている時代ですから、自覚症状が無くても危機感を持って受診される方も増えてきました。
とはいえ、婦人科受診のハードルを越えることはなかなか難しいことのようです。毎月迎える月経ですから、月経痛があれば婦人科疾患に関心がないはずはありません。脅迫的または感情的な内容もあるインターネット情報を鵜呑みにすることなく、気にかかることがあれば積極的に受診し、専門家である婦人科医のアドバイスを受けていただきたいと思います。子宮内膜症の早期発見は病巣の進行を抑え、将来にわたる悪影響を軽減することにつながります。勇気を持って婦人科を訪れてくれた患者さんには、診察する側もきめ細かい配慮のある内診を心がけるなど、最善を尽くします。月経痛を当たり前のこととして我慢するのはほどほどにして、是非婦人科を受診されるようお勧めしたいと思います。