ドクターズボイス〜子宮内膜症で悩んでいる方へ〜

婦人科にかかれば、我慢していた痛みがラクになる治療法があります

子宮内膜症は、がんと違って早期発見しないと命にかかわるということはありませんが、月経痛、骨盤痛(排卵痛)、排便痛、性交痛などの激しい痛みのために、生活の質が著しく損なわれてしまう病気です。月経痛のために毎月会社を休まなければならなかったり、自分の力を十分に発揮できないような状況は、本人にとっても社会にとっても大きな損失になります。日本人は海外の人と比べて、痛くても我慢してしまう傾向がありますが、早く治療すれば、それだけ早くラクに過ごすことができるのです。低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤や黄体ホルモン製剤など痛みをラクにして快適に過ごせる治療法があるのですから、我慢せずに早めに相談していただければと思います。

また、気づかないうちに卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)が大きくなることがありますが、ある程度以上の大きさになるとまれに卵巣にたまった内容物が腹腔内に流れ出て、急激な痛みを引き起こす場合があります。この場合、緊急手術になりますが、夜間救急で腹腔鏡手術ができる婦人科医がいなければ開腹手術になってしまいますし、外科で盲腸炎による腹膜炎と判断されたり、場合によっては卵巣を片方摘出されてしまう可能性もあります。いきなり救急で初診という状況では、詳しい検査もできず治療法の選択肢もかなり限られてしまいます。卵巣チョコレート嚢胞がもっと小さい段階から、低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤や黄体ホルモン製剤で治療を始めておけば、卵巣が大きくなるのを抑えることができたかもしれません。内容物の漏出の有無にかかわらず、痛みの症状が軽くて卵巣チョコレート嚢胞が大きくなければ手術は不要な場合も少なくないのです。

子宮内膜症の治療は、近年大きく進歩しています。自分にとって最適な治療法を選択するためにも、早めに婦人科を受診して下さい。

手術と薬物療法の組み合わせの幅が広がり、コントロールがしやすくなっています

低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤や黄体ホルモン製剤が使えるようになったことで、子宮内膜症の治療は以前と比較にならないくらい進歩し治療法の選択肢も増えたため、手術か薬物療法か妊娠かの何を優先するかを自分で選べる時代になったと思います。手術と薬物療法を上手に組み合わせることによって、患者さんのライフスタイルにあった子宮内膜症のコントロールもできるようになりました。

たとえば独身の女性の場合、小さくても傷が残る手術療法に抵抗がある方が非常に多いのですが、低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合製剤や黄体ホルモン製剤は長期間にわたって使用できるため、薬物療法で痛みのコントロールや卵巣チョコレート嚢胞が大きくなるのを防ぐことができます。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて術後の癒着が起こりにくいとはいえ、何度も繰り返せば癒着を起こす可能性が高くなっていきます。手術の回数はできるだけ少ない方が良いわけですが、これらの薬を使えば、本当に手術が必要なタイミングまで時間を稼ぐことができるのです。

薬では十分にコントロールできずに手術が必要となったケースでも、これらの薬によって術後の再発予防ができるため、再手術をしなくてすむケースも増えています。

また、子宮内膜症の好発部位といわれる卵巣や腹膜以外の腸管、膀胱、尿管、肺、横隔膜等にできる稀少部位子宮内膜症は通常の子宮内膜症の最重症型とされており、手術の難易度も大変高いため、手術を選択するのは薬物療法が効かない場合か不妊症の場合のみに限った方がベターかもしれません。黄体ホルモン製剤は、このような患者さんに有効な場合があるので、手術、薬物療法、不妊治療の兼ね合いが重要な稀少部位子宮内膜症の治療にメリットがあるお薬だと思います。現在はこれらの効果的な新しい薬が使えるようになったことで、個々の患者さんにとって最適な選択ができるようになってきました。

ただ、ごくまれに「ホルモン薬はこわい」という先入観を持っていて、何度お話しても薬を使うことに対して躊躇される方もいらっしゃいます。せっかく選択肢が増えたのに、試しもせず何となくこわいという印象のみでそのチャンスを逃してしまうのは非常に残念なことだと思います。今はこのようなWEBサイトから情報を入手できるのですから、病気のことを正しく理解してほしいですね。

診断が難しく、長くつきあう病気だからこそ、かかりつけの婦人科を持ちましょう

確かに婦人科の受診に抵抗があるという女性は多いと思います。ただ、最近では女性医師も増えていますし、患者さんが抵抗なく診察できるような配慮もできる限り行っています。もっと気軽に相談に来てほしいですね。

とはいえ、いきなり大きな病院に行くと、待ち時間も長くて余計に嫌になってしまうかもしれません。まずは婦人科のクリニックや検診センターに行ってみるのをおすすめします。検診で子宮がん検診を受ける場合には、必ずオプションで超音波検査を付けてもらって下さい。子宮内膜症による腹膜病変や癒着などは超音波検査では診断できませんが、卵巣チョコレート嚢胞があればすぐにわかるため子宮内膜症の診断も容易です。

子宮内膜症は子宮の外側にできるため、確定診断をするには、お腹に穴を開けて腹腔鏡で直接みる必要があります。ただ、検査のためだけに全身麻酔をしてお腹に穴を開けるのは患者さんにとって負担が大きすぎるので、実際は自覚症状や内診・直腸診、超音波やMRIなど画像検査の結果などから臨床診断を行います。子宮内膜症は診断が難しい病気なので、初診で行ったときに子宮内膜症かどうかがすぐにわかるとは限りません。これは病気の特性であり、卵巣チョコレート嚢胞を認めない子宮内膜症は診察が非常に難しいということを理解していただければと思います。

子宮内膜症は閉経までの間、長くつきあわざるを得ない病気です。継続して診てもらうことで、現在の病気の状態の正しい理解や、病状の変化を把握してもらうことも可能です。年齢に伴ってライフスタイルが変化していく中で、最適な治療法を選ぶためにも、普段から相談できるかかりつけの婦人科をもつようにしましょう。

ドクターのご案内

順天堂大学医学部附属 順天堂医院 産科・婦人科
北出真理 先生

住所
東京都文京区本郷3-1-3
電話
03-3813-3111
WEB
https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/sanka/staff.html
  • ドクターズボイス〜子宮内膜症で悩んでいる方へ〜
  • 聖順会 ジュノ・ヴェスタクリニック八田 八田 真理子 先生
  • 産婦人科医師 家坂清子 先生
  • 順天堂大学医学部附属 順天堂医院 北出真理 先生

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